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労災と損害賠償請求(精神疾患)

 

精神疾患が労災と認められた場合の、会社に対し損害賠償を請求する意義について教えて下さい。

 

精神疾患が労災と認定されても、遺族補償給付だけでは、ご遺族の被った全ての損害を填補することにはなりません。
特に、労災保険からは、慰謝料は支給されません。

 そこで、労災保険の給付では不足する損害分について、被災労働者に長時間労働やハラスメントなどの心理的負荷をさせていた勤務先の会社に対して、損害賠償請求をすることを検討する必要があります。
 

1 安全配慮義務違反

 会社は、労働者が生命・身体の安全を確保しつつ労働することができるように、必要な配慮をする業務を負っています(労働契約法5条)。これを安全配慮義務といいます。
 具体的に言えば、安全配慮義務として、会社は、労働者が過重な労働によって健康を害することがないように、労働時間を適正に管理して、適切な労働条件を措置すべき義務を負っています。
 
 また、会社は、必要に応じて、健康診断やメンタルヘルス対策を実施して、労働者の健康状態を把握して健康管理を行い、健康障害を早期に発見すべき義務を負っています。
 そして、パワーハラスメントの事件では、職場の上司や同僚からのいじめ行為を防止する義務や、職場内の人権侵害が生じないようにするためのパワーハラスメント防止義務が、安全配慮義務の具体的な内容となります。
 
 パワーハラスメント防止義務の具体的措置内容としては、①パワーハラスメントの事実の有無・内容についての迅速かつ積極的な調査、②パワーハラスメントの制止などの防止策、③被害者への謝罪、④加害者の異動などの適切な措置があげられます。
 
 会社が、この安全配慮義務に違反して、労働者が精神障害に罹患した場合には、会社は、損害賠償責任を負わなければならなくなります。
 

 

2 損害の内容(過労自死の場合)

①逸失利益
 逸失利益とは、過労自死(被災労働者の死亡)がなければ得られたであろう、被災労働者の将来の収入等の利益のことです。
 
 この逸失利益は、原則として、基礎収入から中間利息と生活費を控除して算出します。
 基礎収入は、原則として、過労自死する前の被災労働者の現実の収入を基礎として算出します。 
 中間利息の控除とは、将来受け取るはずであった収入を死亡時点における金額に引き直すための計算のことです。
  
 被災労働者が死亡した場合、将来得られるはずであった収入がなくなる一方で、生存していれば発生していたはずの生活費が発生しなくなりますので、消費されたはずの生活費を差し引きます。
 生活費控除率は、労働者が一家の支柱であれば、30~40%、その他の場合は50%くらいが目安になります。

②慰謝料
 慰謝料は、死亡に対する被災労働者自身の精神的損害と、ご遺族固有の精神的損害の両方を請求できます。
 慰謝料の金額は、被災労働者が一家の支柱の場合は2800万円程度、その他の場合は2000万円~2500万円程度が目安となっています。
 

3 労災保険との調整

 労災保険による給付を受けている場合、会社が支払うべき損害賠償額から、すでに受け取っている労災保険からの給付の一部は控除されるのですが、将来の労災保険の給付予定分については控除されません。
 また、遺族補償給付のうち、すでに受給した遺族補償年金の分は逸失利益から控除されますが、遺族特別年金と遺族特別支給金は逸失利益から控除されません。
 そして、慰謝料は、控除の対象にはなりません。
 
 そのため、労災保険から支給があっても、会社に対して損害賠償請求をする意義があるのです。
 

4 消滅時効

 2020年4月1日から施行された改正民法により、原則として、被災労働者が死亡した日の翌日から5年が経過すると時効によって、損害賠償請求権が消滅しますので、早目に損害賠償請求をすることが重要です。

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